2017年4月3日月曜日

「新留学生リレー日記」第2回 英米独の学位制度

「新留学生リレー日記」この連載企画では、現役大学院留学生3人が、アメリカ、イギリスとドイツから、留学先の国の学位制度や大学院生の懐事情、留学準備情報について、お伝えします。
第2回の今回は、英独仏の学位制度を比較します。

1.アメリカ、ドイツ、イギリスの学位制度に関して簡単に紹介お願いします。日本の博士や修士の学位に相当するのはどんな学位ですか?

大学によって詳細は異なりますが、一般的に、イギリスでの修士には、講義ベースと研究ベースの2種類があります。講義ベースの修士は1年間のコースが多く、MA (Master of Arts)や MSc. (Master of Science) が授与され、研究ベースの修士は MRes. (Master of Research) が授与される場合が多いようです。また、修士レベルのコースから修論執筆等を省いた形式の Postgraduate Diploma (PG Dip) や Postgraduate Certificate (PG Cert) という選択肢もあります。

アメリカの場合は、修士の学位 (M. S.) は3つの方法でとることができます。1つ目は授業がメインのため修士論文は書かず、代わりに課程を総括する試験や口頭試問を受けて取得する M.S. non-thesis、2つ目は授業と並行しながら研究を行い、修士論文を書いて取得する M. S. with thesis、そして3つ目はPh. D. の課程の最初の2年分が学位としてみなされる場合です。食品科学科のPh. D. は4.5 - 5年程度が標準的です。

ドイツの学位制度は卒業にかかる期間を含め、州の裁量が大きいです。学位は基本的に修士、博士と分かれていますが、博士の学位が Dr. rer. nat.と Dr. -Ing.の2種類あります。自然科学系では Dr. rer. nat. を授与され、工学系では Dr. -Ing. が授与されることが多いです。卒業後、大学院時代の経験に基づいて就職先が決まる(日本でいう新卒採用のようなものは存在しない)ので、30歳くらいで仕事に就くつもりで、博士課程の学生は比較的のんびりしていると思います。

2.その他の専門職学位についても教えてください!


かつてイギリスでは、専門的な能力に基づく5段階のレベルと11の分野からなるNational Vocational Qualifications(NVQ)制度が導入されており、その制度に基づくと、最上レベルが European Qualifications Framework (EQF) におけるレベル7(修士レベル)及びレベル8(博士レベル)に相当するとされていました。しかしこの制度は2015年に学術資格との互換性の為に Regulated Qualifications Framework (RQF)に統合され廃止されました。現在大学では、一般的な MA. や MSc. (OxfordではMSt. /MSc. ) に加え、MFA (Master of Fine Arts)やLLM (Master of Laws)、MBA (Master of Business Administration) や MEng. (Master of Engineering) 等、様々な専門に特化した修士レベルのコースを受講することができます。また、European professional qualification directives によって与えられる”chartered”と呼ばれるより高度な専門家の称号(例:CEng, CSci, CPhys, CChem, 等)も存在します。

アメリカの大学学位は、準学士 (associate)、学士 (bachelor’s)、修士 (master’s)、第一専門職 (first-professional)、博士 (doctoral) の5つに分類されており、日本でいう専門職学位はこの中の first-professional degree に相当します。通常、学部レベルと合わせて6年以上の学習が修了要件とされ、分類では修士と博士の間に項立てされます。主に医学系 (医学博士 M.D., 歯学博士 D.D.S. など)、法学 (L.L.B.またはJ.D.)、神職 (B.D., M.Div., M.H.L.) の3分野で与えられてきたのですが、現在では経営学 (M.B.A.) や公衆衛生学 (M.P.H.) など様々な分野で専門職学位が設定されています。

日本語ではどちらも大学と訳されますが、総合大学である Universität と専門職大学である Hochschule(ホッホシューレ)とに明確に区別されています。小学校の時点で大学に行ける学校か、職業訓練学校に行ける学校かが決まります。近年では、大学に行かせたいと考える親が増え、ドイツ政府も教育に投資をしているので、大学に行くコースの門戸が開放されました。一方で結果として大学のレベルが下がったという議論もあります。

3.米国の大学には編入制度があると聞いたことがあるのですが・・・?


コミュニティカレッジ(2年間の短期大学)は編入学について総合大学と提携を結んでいる場合があります。たとえば南部州(アーカンソー、オクラホマ、ルイジアナ、ミシシッピ、テキサス、テネシー)では進学先の大学の学費が安くなる特典が受けられることがあります。

UC Davis でも近隣のコミュニティカレッジから編入する学生が結構多いですね。編入制度がしっかりしているという印象を受けます。
第3回に続く

新留学生リレー日記
第1回 Oxford & UC Davis & Tübingen
第2回 英米独の学位制度
第3回 アメリカの大学院
第4回 ドイツの大学院
第5回 イギリスの大学院
第6回 Q&A
第7回 留学生の懐事情
第8回 オックスフォード生活とお金
第9回 ドイツ留学で気になるArbeitsvertragとStipend

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執筆者プロフィール


江口 晃浩(えぐち あきひろ)
高専時代にAFSを通じてオレゴン州の高校で一年間の交換留学を経験。2008年より米国アーカンソー大学に進学し、2011年春に理学士(コンピュータ・サイエンス)、2012年に教養学士(心理学)を取得。同年、英国オックスフォード大学大学院に進学し、計算神経科学の博士号過程に在籍中。ブログ「オックスフォードな日々http://hogsford.com

村瀬 彩華 (むらせ あやか)
カリフォルニア大学デービス校 食品科学科の修士1年生 学部卒業後に渡米
専攻は食品微生物学
川口 雄久(かわぐち かつひさ)
チュービンゲン大学 マックスプランク神経行動科学大学院のD2
学部卒業後に渡独 研究内容は視覚情報処理と意思決定

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発行責任者: 武田 祐史
編集責任者: 日置 壮一郎
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